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新明解国語辞典

を教育現場のプロが分析してみた

  • 2020年2月27日
  • 2020年2月27日
鈴木雄大

慶翔ゼミナール・塾長の鈴木雄大です。

鈴木雄大

「紙の辞書」って古くないですか? と聞かれることがあります。

鈴木雄大

答えは、否。
まったく古くないです。むしろ現代日本における最先端の技術と知恵、そして言葉に対する最高の想いがちりばめられています。

鈴木雄大

お手元にある辞書、なんでも結構です。手に取ってみて1ページ1ページめくってみてください。

鈴木雄大

驚くほど薄い紙なのに、裏写りしてませんよね。このような紙を薄葉印刷紙といいます。

鈴木雄大

実は2枚重ねのティッシュペーパーより薄いのです。それでいて長年の使用に耐えうるべく強く、そしてしなやか。辞書は開いた状態にして使用することを前提としているので強さとしなやかさといった相反するものを実現しているのです。

鈴木雄大

また、冬の乾燥した季節でも1枚1枚が指にしっとりとなじんできます。一方で静電気も発生しません。それでいて数枚が同時にめくれるようなこともない。1枚ずつ確実にめくれる工夫と技術がここにあります。

鈴木雄大

しかも、おどろくほど軽い。

鈴木雄大

辞書と同じ厚さに別の本を並べてみれば一目瞭然です。教科書を重ねて並べれば同じ厚さなのに、辞書のページはその倍。

鈴木雄大

その薄い紙に細かい字がびっしりと印刷されています。読み仮名などは本当に小さい字です。ところがつぶれて見えなくなるようなことはありません。印刷技術も世界最高のものが使われているのです。

鈴木雄大

今回は教材中の教材、すべての教材の基本である「辞書」について熱く語っていきたいと思います。どうぞ、よろしく。

教材名/出版社

教材名 新明解国語辞典
会社名 三省堂

この教材はどんな人におすすめですか?

鈴木雄大

「右」をどう説明しますか?

この質問に「おっ!?」と思われた方、ぜひ。
三浦しをん著『舟を編む』に触れた方はニヤリとしてるはず。映画化もされました。

私が小さい頃は「お茶碗を持つほうが左で、箸が右」と教わりました。しかし、今の時代そんなことは通用しませんね。

では、多くの辞書ではどう説明しているでしょうか。

『広辞苑』を筆頭に、実は『方角』で説明しています。

「南を向いた時の西」とか「北の方角に体を正面にした南側」などです。しかし、これって方角がわかっていないと理解できません。よりわからない説明と受け取る人もいるでしょう。

しかし、『新明解』ではこう説明しています。

アナログ時計の文字盤に向かった時に、一時から五時までの表示のある側

さらに

【明】という漢字の『月』が書かれている側と一致

どうですか? その光景がありありと目に浮かびませんか?

そもそも辞書はなぜつまらないか。

それは辞書の歴史にも通じるのですが、もともとは外国語の翻訳・翻案から出発しているからです。単に語の言い換えでしかすぎない。多くは模倣であり、追随でしかなかったのです。よって、文字の習得と確認の域を超えることができない。

ところが、ここに果敢に挑んだ辞書があります。
辞書に「創意」という息吹を吹き込んだ日本で最初の辞書、それが『新明解』なのです。

さあ、一緒に言葉の海に泳ぎだしましょう。

教材概要

「辞書は何がいいですか?」 という質問は塾講師をやっているとよく受けます。国語に限らず、英語でも多いですね。

そして今では、「紙の辞書と電子辞書のどちらがいいか」という問いの方が多くなってきました。

私個人的には、ただ調べるだけであれば電子辞書、いやスマホの方が圧倒的にはやく効率的ですので、そちらをオススメします。また、これからはそれらの機器を使って調べるスキルが重要になってくるでしょう。ですので、紙の辞書の方がよいとは決して思いません。

実際、私の塾では小学生も中学生もスマホを解禁して、わからないことは調べていいよというふうにしております。

ところが、電子辞書やスマホで調べるとすぐに答えにたどりつけるかというと、実はまったくそうではないのです。国語に限っていえば、同訓同音異義語はもちろん、ことわざや慣用句、四字熟語など最初の一文字が空欄になっているともうお手上げです。意味からその語をたどる逆引きなどは至難の業といっていいでしょう。

つまり、最終的にはその子の中にある語彙力。

なんとなく、ほわっとしたものでもいいのです。これかな、と感じる直感的な何か。それがあるとたどり着きやすいのです。

そして、それを培うには、日々言葉とどう接するかにかかっています。

であるのならば、語の説明はより具体的かつ情景が鮮明で、なにより印象に残る説明、つまり「創意」があったほうがいい。そこで今回選んだのが、この『新明解国語辞典』なのです。

語の説明である以上、辞書によって大きな違いがあろうはずがないとお思いの方もいらっしゃるでしょうが、実際は大きく違っています。辞書によってその味わいはだいぶ異なります。さらには同じ辞書であっても版によって表現が異なっています。まさに、言葉は生きている。時代とともに変化していくのです。

教材のポイント

POINT 1
背景が深い。
「読書」を辞書で引くと、その多くが「書物を読むこと」にとどまります。

しかし、『新明解』では、

どくしょ【読書】〔研究調査や受験勉強の時などとと違って〕一時(イットキ)現実の世界を離れ、精神を未知の世界に遊ばせたり、人生観を確個不動たらしめたりするために、(時間の束縛を受けること無く)本を読むこと。〔寝ころがって漫画本を見たり、電車の中で週刊誌を読んだりすることは、本来の読書には含まれない〕

となります。ただ単に表面的な解説にとどまらず、その奥底にある背景にまで果敢に挑んでいます。この辞書によって「何か」を得る人もいるのではないでしょうか。

POINT 2
「文法」や「運用」にまで言及している。
ただ単に語句の意味を羅列するだけでなく、似たような語の違いや実際に現社会でどのような使われ方をしているのかなどわかりやすく解説しています。

例えば、「見える」と「見られる」の違いは、我々が塾の授業で解説したとすると可能動詞というキーワードから、五段活用と上一段活用からの転成の違いなどにとどまることが多いはずです。

しかし、新明解では実際にどのような場面でこの語の違いが明確になるかを解説しています。また、「・・・なければならない」と「・・・なければいけない」の違いや「・・・かもしれない」と「・・・にちがいない」はどのような主張のもと用いられ方の違いがあるかなど、非常に興味深い記述が続きます。

POINT 3
辞書を超えた「文学」である。
新明解がなぜ文学であるのか、その昇華する瞬間を目撃してください。

「命」とはなんでしょうか。辞書オブ辞書である『広辞苑』によると、

①生物の生きてゆく原動力。生命力。
②寿命。
③一生。生涯。
④もっとも大切なもの。真髄。

とあります。まさにそうですね。おそらくどの辞書であっても同じような記述でしょう。

以下、『新明解【第七版】』の記述をもってこの稿を終えたいと思います。

いのち【命】 生物が生きている限り持続している肉体や精神の活動を支える根源の包括的な呼称。〔一瞬一瞬生きることの繰返しとしてとらえられる緊張の持続であり、客観的には有限であるものが、主体的には無限の連続として受け取られるところに、その特徴が有る〕

先生よりアドバイス・メッセージ

実は当初は『新明解【第三版】』について書いていました。ここでもニヤリとする方が多いはず。『新解さんの謎』などで有名になった、いわば新明解を代表する記述がある版です。特に【恋愛】や【ゴキブリ】などが有名ですね。私もそれをベースに一度は編集部に原稿をあげました。私は辞書の中では新明解がもっとも好きですし、一番使います。

しかし、その時の私の原稿ははっきりいってそれは「トンデモ本」の紹介に近いものでした。他の辞書にはない面白おかしい表現を紹介していたに過ぎないのです。そこには新明解、いや辞書そのものに対する愛と敬意が欠けていました。

それを深く感じさせてくれたのは、三省堂辞書編集部の皆様です。

今この瞬間も、様々に変化し、進化する言葉に挑み続けている人達がいる。

辞書に対する熱い想いに接し、原稿をイチから書き直すことにしました。第三版から第七版まですべてを購入し、すべてに目を通しました。参考にすべき辞書関連の本や映像にもできる限り触れたつもりです。

そこで感じたのは言葉に対する愛と熱意、そして責任です。

一度世に出したものに対する責任。そこには恐怖もあるでしょう。ましてや、その国の根幹である言語に関わる書物です。並大抵の努力と決意ではありません。そして、膨大な時間と人のかかわりがそこにある。

ですので、一度は書き終えた原稿もこうして新しく書き直しました。

辞書の編纂は、人が人生をかける価値のある仕事だと思います。なぜなら、その人がいなくなっても、永遠にその辞書とその言葉はこの世界にとどまり続け、人々の寄りどころとなるからです。三省堂辞書編集部の皆様、本当に有難うございます。それを感じさせてくれたことは私にとっても財産となりました。

最後に。

辞書にはそれぞれに深さと楽しさがあります。

同じ三省堂の『現代新国語辞典』では、「くさ【草】」を

④ツイッターなどで笑う・あざけること。笑えること。[warai]の頭文字を並べたwwwが、草が生えているように見えることから

という記述になっています。これなどはものすごく現代的で、今の子供達もすっと入ってきやすい表現ですよね。

つまらないと思っていたものでも、実はこんなにも奥深い世界があったのだとほんの少しでも感じてもらい、家の片隅に眠っている辞書の1ページでもめくっていただけたらこんな嬉しいことはありません。

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