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徹底つみ上げ式 子どものための 論理トレーニング・プリント

を教育現場のプロが分析してみた

  • 2020年1月17日
  • 2020年1月21日
クロゾフ

はじめまして。
クロゾフと申します。

クロゾフ

国外のアメリカンスクールにて、海外子女と現地日本語学習者を対象に、国語/日本語の授業を行なっています。

クロゾフ

本日は日本語が身近ではない環境でも、作文能力の涵養に貢献できるテキストを共有いたします。なお、今回の記事は、先生方を対象に、ややとっつきにくい内容になっています。保護者の方はぜひ、最後の「保護者向け」だけでもご覧ください。

教材名/出版社

教材名 徹底つみ上げ式 子どものための 論理トレーニング・プリント
会社名 PHP研究所

この教材はどんな人におすすめですか?

1)作文に抵抗のある全ての人
2)どう作文能力を鍛えるか迷っている先生方

基礎も基礎の教材です。
ですが・・・といったところが、この教材の魅力です。

教材概要

教材名に「子どものための」とある通り、内容は非常に簡単です。しかし、そこには

実社会で必要とされる言語技術
「はじめに」より引用

を育成するためのエッセンスが散りばめられています。

また「プリント」とあるように、各ページのタスクは非常に短く、スモールステップを意識した構成になっています。さらに「一人で学習ができるように」穴埋めやイラストによって補完されているため、自習教材としても有益ですが、指導者の立ち会いのもとに使用すれば、その効果はさらに増大すると思われます。

教材のポイント

ポイント

  • 書くための7項目
  • 徹底した反復と発展
  • 本テキストの使い方(先生向け)
POINT 1
書くための7項目
本テキストは、7つの項目と、前記の7項目が段階的に難しくなっていく5つのステップにより構成されています。7つの項目は以下の通りです。

①論証 人に理解してもらえるような形で自分の意見を伝える
②物語 主語や述語、助詞や接続詞を意識しながら文を作る
③説明A 情報のより正確な伝達
④説明B
(描写)
対象を観察し、客観的な言葉で伝える
⑤報告 5W1Hを意識しながら文章を組み立てる
⑥視点を変える 多角的な視点を養い、想像する
⑦絵の分析 対象を分析し、論理的な方法で情報を推測する

いかがでしょうか。この7項目からだけでも、「書く」または「伝える」という一つの作業に隠された、「考える」という能力の必要性を再認識できるのではないでしょうか。ただある定型に落とし込んで、紋切り型の作文を作らせてしまう類のテキストではないことが一目瞭然だと思います。

今回は特に「①論証」と「⑦絵の分析」について、少し詳しく紹介しようと思います。

「①論証」では【人に理解してもらえるような形で自分の意見を伝える】ことを徹底します。この項目は「問答ゲーム」の紹介から始まります。

「問答ゲーム」は4つのルールからなります。

  1. 主語を入れる
  2. 「何が」をいれる
  3. 結論を先に言う
  4. 理由をいう

「問答」という禅用語からは想像できないほど単純なルールですが、このテキストでは常にこの4点が徹底的に反復されます。これは本当に基本的なことですが、基本的なことだからこそ徹底する意味があります。

しかしながら、問いもまた、簡潔です。

ステップ1論証で問われることは

「あなたは、アイスクリームが好きですか?」

これだけです。

どうしても「ペットを飼うことに賛成か反対か」「地球温暖化にともなって、あなたにできることはなんですか」等のより高度な問いを投げかけたくなりますし、活発な議論を生徒たちに期待してしまうのが“私の”癖ですが、まずは身近な、もしかしたら矮小なまでのテーマからスタートし、意見を述べる際に必要な要素を(あくまで何かしらの定型を押し付けるのではなく)身に付けることこそが肝要であることを思い出させます。

「⑦絵の分析」では【対象を分析し、論理的な方法で情報を推測する】ことを徹底します。
ステップ1では、一つのイラストが提示され、

「場所はどこですか?/その理由は?」
「季節はいつですか?/その理由は?」
「時間はいつですか?/その理由は?」

と言った具合に、徹底的に情報の発見と、理由付けを促します。

これは美術教育の中でも「ディスクリプション」として知られている手法の、より情報発見と理由の陳述に特化したバリエーションと言えると思います。ここではある情報を自ら発見する力を培うことができると言えます。対象はテキストの性質上イラストですが、これは日常的な光景から美術鑑賞、さらにいえば小論文等で問われる問題点の発見にも繋がる視点だと思います。

また絵の分析には多くの前提情報が必要です。たとえば、ひまわりが咲いている光景から季節を推測することは可能でも、睡蓮が咲いている光景から季節を推測できる人は、もしかしたら花に詳しい人だけかもしれません。つまりここでは、もちろん論理的に推察することも必要ですが、やはり前提となる「知識」の重要ささえ説いていると言っても過言ではないと思うのです。「無駄知識」なんていうものはないんだということをほのめかしている、と言えるかもしれません。

POINT 2
徹底した反復と発展
前述した通り、5つのステップは段階を踏むごとに難しくなっていきます。最初は一文程度の空欄補充式の問題から始まり、最終的には500字程度の作文にまで発展します。それが、ほぼストレスレスに発展していくと言っていいと思います。ここでは「②物語」の問いを最初のステップから順に紹介します。

ステップ13つの単語を使って文を作る問題
ステップ2漫画のようなイラストで、二人のキャラクターに吹き出しが付され、それをそのまま「」の中に書き写すような問題
ステップ33つのイラストと4つの言葉が示され、そこから物語を作る問題
ステップ44つのイラストと6つの言葉を使い、また空欄の中に「物語の題名」「登場人物の名前」「いつのことか/どこであったか/何を発見したか」を補充し、さらに400字程度の物語を作る問題
ステップ56つのイラストをもとに「いつのことか」「どこで起こったか」「登場人物はだれか」「何が起こったか」「なぜか」「題名」を先に簡潔にまとめ、400字程度の物語を作る問題

ステップ2からステップ3にかけて急激に難しくなったように感じるかもしれませんが、それには理由があります。7つの項目を1ステップごとに繰り返すので、ステップ2からステップ3までのあいだに他の6つの項目がなされているので、全体的には徐々に難しくなっていっていると思っていただいて構いません。

ここで注目して欲しいのは最初のステップで、3つの言葉を使って文をつくるときに肝要になるのは「主語」と「助詞」と「活用」です。このステップは、「体育の時間」「練習」「運動会」を使って短文を作る課題から始まります。そこで必要なことは「主語を入れる」「助詞を入れる」「用言の活用」の3点です。唯一解がある訳ではないので、『僕は体育の時間に運動会の練習をした』という基本的な文から『クラス全員が体育の時間に練習したパフォーマンスを運動会で発表した』等の新たな単語を追加して文を作ることも推奨される活動です。特に教室活動では、他の生徒の解答と見比べることで、独創的な文にチャレンジする生徒も出るでしょう。

また「②物語」とある通り、次の課題は「一ぴき目のこぶた」「わら」「家」、さらに「すると」「ふきとばす」「おおかみ」「食べる」というように、『三びきのこぶた』を題材にした課題に移ります。ここではコンテクストを意識させた「接続詞」に目を向けさせます。
二つの文を示し、空欄になった箇所に接続詞を補充する問題は少なくないですが、ここでは自ら接続詞前後の文を作ることに独自性があると思います。既にある文の間に接続詞をいれるのではなく、接続詞自体が要請する文を自ら作り出す、という営みは、意外と盲点だったと思うのです。まさに接続詞を体感する営みであると言えます。

ここでは徹底的に、「主語を入れる」「助詞を入れる」「用言の活用」の3点と接続詞に意識を向けさせます。物語を作るとなると、マクロな視点から書き手の夢はぐんぐん広がっていきますが、それを構成する「助詞」や「活用」というミクロな存在を無視して壮大な物語を作ることは不可能です。

徹底的に「どのように書くか」を最初に意識させることで、壮大な物語を紡ぎながら、丁寧に言葉を綴ることができるような構成になっています。

POINT 3
本テキストの使い方(先生向け)
テキストは100p程度で、内容も「子ども」向けですが、前述したようなエッセンスを元に、類題を作ることは難しくないと思います。例えば「アイスクリームが好きですか/なぜですか」という問いから、中高生向けに「〇〇に賛成ですか/なぜですか」という問いをつくることは容易ですし、さらにスモールステップという意識も真似て、まずは超短文から始めていくというのは、実際とても効果のある方法だと思います。
イラストを芸術作品に変えたり、読むべきテクストを文学テクストに変えたり、そのエッセンスも元に、ニーズに合わせて発問を変えていくことができると思います。

私は現在、生徒全てにこのテキストを持たせ、1日2項目から4項目ほどのペースで取り組んでいます。まずは概要だけ説明し、どこに注目しながら作業に取り組むのかを示し、その後時間内(10分)で取り組ませ、机間巡視(5分)しながらハンコを押していくだけです。

生徒の皆さんへアドバイス・メッセージ

作文大っ嫌いと思っている生徒諸君には、ぜひここから始めることも視野に入れて欲しいと思います。最初はバカにすんな!と思うかもしれませんが(ええ、それほどに簡単です)、作文や小論文に必要なエッセンスを確実に育ててくれます

先生方へアドバイス・メッセージ

書く指導は、さまざまなメソッドがあり、何かが一番いいということはないと思います。更に言えば、そこにメソッドを求めることさえ不可能であると思っています。そこで、その一番「当たり前」、全ての前提となっているようなことを洗い直すのがこのテキストです
多様な生徒を抱える先生方の日々の努力を軽減する意味でも、自習教材として開発された本テキストは、先生方の指導に付け加えることで、生徒のわずかな労力と時間で作文能力を培うことができる構成になっていると思います。

そして最後に、このテキストの帯や前書きにはいささかセンセーショナルな、日本の国語教育批判がなされています。そこに対する批判はとても全てが妥当とは言えず、また「お父さんとお母さんにインタビューしよう!」というような、現代の多様な家族形態にいささか配慮を欠いたタスクがわずかに存在します。
そのような点については“完璧なテキスト”とは言えません。このテキストに限らず、無批判に全てのテキストを受け入れることは難しいです。本テキストもまた例外ではありません。ぜひ先生方の批判的な視点を以って、このテキストも慎重に扱っていただきたいと思います。それでも、このテキストの方向性については自信を持ってお勧めできますので、ぜひご一考ください。

保護者の皆さんへアドバイス・メッセージ

このテキストは、一言で言うと「当たり前」を育成するテキストです。作文に特化した教材ではありません。例えば学校であったことを一生懸命伝える我が子の説明が、ややわかりにくいな、なんて思った経験のある保護者様にとって、うってつけのトレーニング教材になりうると思います。

例えば、テキストのなかでは「わかりやすい説明の順番」として、「大きなこと」から「小さなこと」の順番で説明しようというページがあります。当たり前すぎて、案外我々大人でも見逃してしまいそうな要素です。

このテキストは非常に簡単ですが、これは「基礎だから簡単」というよりも「基礎なのに簡単」を実現したテキストと言えます。題名に「基礎」と銘打たれているテキストなのに、「できない」「難しい」という感想をもつことは少なくないと思います。実は基礎は難しいんです。

これは私の経験談ですが、日本語を教えていると、特に基礎は難しいと感じることが多いんです。例えば「食べる」「寝る」「買う」「休む」「話す」「書く」「脱ぐ」に、それぞれ「た」を付してみてください。「食べた」「寝た」は簡単です。最後の文字を「た」に変えるだけです。しかし「買った」「休んだ」「話した」「書いた」「脱いだ」はどうでしょう。そこにパターンを見出せますか?「休んだ」「脱いだ」に至っては、「た」を付せといってんのに「だ」に変わる始末です。もちろんパターンはあるのですが、日本で生まれ日本で育った日本語を話す方であるなら無意識にこなしている作業でも、日本語学習者にはとても難しい作業です。

実はこのようなことは、日本で生まれて日本で育った日本語を話す人でも起こりうることだと思うんです。それが「伝える」というような時です。それも「わかりやすく」となると、そう簡単な作業ではありません。このテキストは「当たり前」を育む教材です。この「当たり前」は、もちろん「作文」や「小論文」のみならず、日常的な「報告」や、国語の読解にも役立つ力ですし、引いては筆者が言うように「実社会で必要とされる言語技能」を必要とする活動全てに通じる力になります。

言わなくてもできるだろう、というようなことを徹底的に洗い直すことで、目下の作文等の活動にも間違いなく良い影響を与えると思います。

プリント式なので、毎日1ページでも、ゆっくり使用することをお勧めします。何度も何度も同じ問題を解くというような教材ではありません。時間も10分ほどです。もっと短くてもいいです。しかし、トントン進める教材でもあるので、やりたいと言うならドンドン進めても大丈夫です。ぜひご一考ください。

この教材についてのみんなのツイート


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